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介護保険改定 (2006/08/17)
 本年4月に介護保険の改定が行われました。医療保険は4月から全患者さんが変更されるのと異なり、介護保険は前回認定された月から1年後に再認定を受けるために、毎月介護認定が変わるのは12分の1ずつという計算になり、介護を受ける方の反対が起こりにくい仕組みになっています。すなわち、昨年4月に介護認定を受けた方は今年4月に、昨年8月に認定を受けた方は本年8月に更新という具合です。
 私の診療所の患者様は82歳で、脳梗塞を7年前と2年前の2回されています。それでも何とか杖をついて歩かれています。しかし、年齢と共に少しずつ足は不自由になっておられました。ところが、今まで要介護2だったのが、今回の改定で要支援2に変更になったとおっしゃいました。
 そこで、どんな不都合が起こりましたか?と尋ねると、
  1. 介護用ベッドが認められなくなり、取り上げられた。その為、ベッドから起き上がるのに苦労する。
  2. 介護タクシーを利用して通院していたが、普通のタクシーで自費で来ないといけなくなった。
    介護タクシーの運転手さんは、家の玄関まで迎えに来て介助してくださるが、普通のタクシーだと門の外で待ってられるだけなので不便だと答えられました。

こんなおかしな改定を何故、TVで取り上げないのかと思っていたら、8月初旬にNHKで取り上げて今回の改定の問題点を利用者に尋ねた後、厚生省の方にインタビューしていました。その方は今度の改定は10年後、20年後、老人が増えるのを見据えた抜本的なものだから理解して欲しいと答えておられました。
 私は10年前60歳の方の大半は70歳に、70歳の方は80歳になるのは分かっているのだから、10年前今の老人問題が分からなかった方が、今から10年後のことが分かるはずは無いと考えるのですが如何でしょうか。
 今回の介護保険改定について、メディカル朝日8月号に「現場で上がる『おかしい!』の声」と題して、城西国際大学福祉総合学部教授の服部万里子さんが書かれていますので、ほぼ全文を掲載して、皆さんで考えていただければと思います。

現場で上がる『おかしい!』の声

      服部万里子 城西国際大学福祉総合学部教授
            NPO渋谷介護サポートセンター事務局長

介護2・3から「改善」すると予防給付へ直結されるのはおかしい

 介護保険の認定で、利用者からは「ケアプランを断られた」「このプランでは生活できない、困った」の声が聞こえるが、その声を持っていく場がない状態である。
 東京都社会福祉協議会が06年4、5月に、制度改定前から継続して介護保険サービスを利用していた軽度要介護者を中心に実施した調査(対象659人)のなかで、4〜5月に認定更新を受けた240人のうち「介護度が軽くなった」は86%であった(表1)。その結果として利用者の半数近くが「サービス回数が減った」、4割が「今までのサービスを利用できない」と回答している。社会福祉協議会はこれを受けて5月28日に「介護保険制度改正につなげる緊急宣言」を発した。
 さて、「軽度認定」に関して厚生労働省は「認定基準を変えていない」と言うが、実際は要介護3や2の人が「要支援2」に変わり、通院や入浴、生活援助の介護サービスが制限されて生活の継続性が困難になる事例が出ている。
 この原因は、要介護2や3がリハビリなどで改善すると、要介護1になることなく直接「要支援」になるという新たな認定制度にある。要介護1は06年3月データで認定者全体の33%、145万人を占めたが、4月以降「要介護1」に認定される人は「認知症」「癌末期」「半年以内に状態急変悪化」に限定されたのである。要介護状態になる原因のトップは「脳血管疾患の後遺症」であり、脳梗塞で入院しリハビリして在宅に戻り、要介護2や3の人が改善して「要介護1にコンピュータで認定」されても、上記3種の場合以外は「要支援2」にならざるを得ないのである。従来、要支援・要介護1の認定者の場合でも原因のトップは脳梗塞であり、年齢も80歳以上が6割である。特に軽度者は独居が多く、限定されたサービスでは、予防どころか在宅生活の継続すら困難になっているのである。この認定は見直し、疾患や要介護の状態を判断に入れるべきであろう。

表1 介護保険制度の改定に伴う要介護度の比較(対象240人)-東京都社会福祉協議会調査より
以前より軽くなった 86%
以前と変わらない 5%
以前より重い 3%
その他 3%
不明 3%
 

事業所が利用者を選別する「ケアマネジメント特定事業所加算」はおかしい

 ケアマネジメントが5年間2桁の赤字経営であることは厚生省の調査で明白である。これが4月以降は「特定事業所加算」を取得すると報酬単価が43%アップして黒字転換の夢がかなうことになった。ところが、その取得のための10の要件の中で、介護保険の理念に反する要件が二つある。一つはケアプランを重度中心にして要介護3以上を60%にせよというものであり、もう一つは「予防プラン」を1件も受けてはならないという要件である。このことは実際には「軽度者の依頼は断れ」「予防プランは断れ」というものであり、介護保険の基本理念である、「サービスは(居宅介護支援も含めて)利用者が選択できる」に反する。このような「利用者選別」の助長は「おかしい」。この要件は介護保険の基本理念に照らして外すべきである。

「立ち上がりができない」要介護1・要支援からのベッドの取り上げはおかしい

 要介護社が生活する際に、福祉用具は自立のための手段である。ICF(international classification of functioning disability and health;国際生活機能分類)はすべての人を対象に、福祉用具やサービスを活用することで通常の状態における生活機能をアップすることを基本にしている。ところが今回の改定では、要支援も要介護1も「床からの立ち上がりができない」ためにベッドをレンタルすることは妥当でないと、認めないとした。現在ベッドを利用している人から取り上げるなど、とんでもなくおかしい事態になった。脳梗塞で片麻痺の人は装具をつけベッドからの立ち上がり、歩行につなげることで生活をしている、立位歩行をすることは人間の本源的な自立の第一歩である。これを認めず、安くするから購入せよとはもっての他である。ちなみに福祉用具では天井から床まで伸ばしてつかまるT棒が、立ち上がりのできない人の福祉用具としてあるが、単価は8000円で1モーターのベッドと同一である。立ち上がり機能障害者にベッドの貸与を認めるべきである。

利用者の力を引き出す訪問介護が1回308単位ではおかしい

 ケアプランにおいて、ヘルパーがするのではおなく、「本人の力を引き出しながら一緒に家事を行い、できることを増やしていくようにする」事は妥当である。しかし、「家事援助は基本的に認めない」「共にする介護をやれ」と言いながら、週に1回でも2回でも予防訪問介護の報酬が308単位という「共にする介護1時間402単位」に程遠い報酬なのはおかしい。軽度要介護者のニーズのトップは「買い物が一人でできない」ことであり、杖やシルバーカーを利用する利用者にヘルパーが同行したり、バスでの外出に同行介助して一緒に出かける場合には当然、時間が必要である。ヘルパーが自転車などで買い物を代行することとは異なるのである。その時間が308単位では往復に同行することは不可能だ。調理や掃除や手続き代行や通院介助なども通常ではあり得ない報酬である。「本人の力を引き出すように共にする介護」が提供できる時間を認める報酬にするべきであろう。
 さらに、要支援の限度額が余っていても訪問介護の限度額を超えると自費でサービスを受けなければならないような仕組みはおかしいのである。限度額までサービスが選択できるようにするべきである。

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